
もう10年以上前のことであるが、ある講習会で話をしていて受講者の一人が「先生にとって治療でいちばん大事なのは何だと思ってらっしゃいますか?」という質問があった。わたしは「いちばん大事なのは愛です」と答えた。するとその人は唖然とした顔で、そして鼻で笑っていた。きっとその人は、自分の悩みをとりあえず解決してくれるスキルやノウハウなど技術的な答えを期待していたのかもしれない。しかし、スキルを答えてもそれは使う人によって違いが出るし、いちばん大事なのはスキルよりマインドだといつもそう思っている。そしてマインドでいちばん大事なのは、自分がプロとして行うこと、そしてその対象にどれだけ愛を込められたかである。
私たちが昨年から始めた地域でのメンタルヘルス・ソリューション・プロジェクトは、まだ始まったばかりではあるが、その目的において、「心を癒やす、回復を手伝う」という既存の精神医療の努力や取り組みをさらに発展させ、「障害を持つとか持たないには関係なく、人の生き方や働き方や社会環境を、真の自由と豊かさがあふれるものに変えていく、本来の姿を取り戻す」という意味を持っている。
以前に、人間は堕ちた天使であると書いたが、人間の真の姿は本来、素晴らしいものであり、マザー・テレサの表現にもあるように、「あなたは、この世に望まれて生まれてきた大切な人です。あなたは、あなたであればいい。私にできて、あなたにはできないこともあり、あなたにできて、私にはできないこともあります。だから、ともに力を合わせれば、素晴らしいことができるのです」という言葉を、単なる偉人の名言ではなく、実際に実現していこうというわけである。
この世が混乱したために心の病が増えたのであり、この世を天国のような素晴らしい環境に戻していく、混乱を取り除く、活動にはそういう使命がある。それは、そういう本来の素晴らしい環境を「奪還する」ことでもあると考えたほうが良い。なぜなら、マザー・テレサの言葉にあるように、その目的と成功へと進む時、邪魔や抵抗や困難がつきものであり、私たちには先じてその道の明かりを灯す役割と使命があるということである。もし逆にそういう試練に出会わない道であれば、それはそもそも使命に進んではいなかったと考えたほうがよい。
使命に進むには戦士モードが適している理由についてはまた別の機会に述べたいと思う。しかし、愛を武器にする時に人が堕ちて行く落とし穴には、気がつくと正義を武器にしてしまう場合があるということである。正義感は両刃の剣であり、相手も自分も傷つけることがある。この混乱の世の中にあって正義は大切な要素だが、一方で時に柔軟に、正義過ぎないことも大切だということである。人間の歴史において人は何度も世の中を良い方向に変えようとしてきた。しかしその多くが、正義すぎるという自己中心に堕ちることで、逆にこの世に混乱をもたらしたことを知っておくとよい。
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