精神医療

ケイパビリティ・アプローチの発展に向けて

 数年前に、制度に人を当てはめるのではなく、アマルティア・センの潜在能力(ケイパビリティ)アプローチを用いて人に自由の幅を拡大するという支援を考えていくために、簡単でわかりやすい包括的支援マップを作り、その人の潜在能力を評価し、自由の幅を広げていこうという試みを行った。

 巷にはストレングス・モデルというものもある。その人の強み(ストレングス)を生かして社会適応を目指そうという動きであり、それが現在の主流のように表現されてもいたが、そのモデルの目的は、目標の「達成」に向けてエンパワーメントとすることを志向しており、真の自由や真の豊かさという視点に欠いていると思っていた。そのモデルで考えている人たちに言わせれば、それら(自由や豊かさ)は目標としている「リカバリー」には内包されているはずだというのかもしれないが、リカバリーは本来、手段であり目的ではないので、ただの社会資源を紹介して終わりといったいわゆる行政的な支援よりはマシだとしても、目的がリカバリーそのものになりがちな支援者たちの自己満足に終わることがよくある。その点、ケイパビリティ・モデルの方が本質をとらえやすいと思っていた。

 しかし、前項でも述べたように本人が「自分にとって価値あると思える選択」をしようにも、長い間の罹病や貧困の中にあって、知らず知らずに自分の願望を控えめな(現実的な)レベルにまで切り下げようとしたり、逆に価値あると思う選択が自己中心的すぎて周囲との協力が得られにくかったり、そもそも「自分なんて価値がない」とすべてをあきらめているかのように振る舞ったりするために、支援プランの立案が前進しない事態が生じることが多かった。
 要するに、実りある支援を醸成していくうえで、支援者側にも当事者側にも「自己中心」という壁が立ちはだかるのである。つまり、充実して豊かな生(人生、生命、生活)を「どう生きるか?」ではなく「どうすべきか?」「どうしたいか?」という思考に収斂していってしまうのである。

 そこで私は、ケイパビリティ・アプローチをより望ましいものにするために、その個人の精神性(価値や信念を形成するマインド)に焦点を当て、その豊かさを開発することから始めることにした。その人の精神性には自意識から生じる価値や信念と共に、その人の霊性も関与しているのであり、その回復も視野に入れたアプローチ、それを「ケイパビリティ・アンド・スピリチュアリティ・トリートメント・モデル(通称CASTモデル)」と名付け、豊かで充実した人生を送るための方向性を導き出すマインド・セットを Holing and Natural Mind と呼んだのである。