
精神科医師として長年生きて来てこのテーマはいつも考え続けて来たことである。最初に疑問を感じたのはそれこそ国家試験に合格し、臨床医となった精神科医師一年生の頃である。とにかく「なんか変だなぁ」と感じることだらけだった。
家族は患者を異常だと言うけれど、患者の言うことを聞いていると患者の方がまともなことを言っていたり、入院しなくてもいいのにと思える人がたくさん入院していたり、医師たちの検討会に出てみても各々視点(診立て)も違えばアプローチ(治療選択)も様々で最後は先輩医師のうんちくを聞いて終わりみたいな世界だったのである。
その後、時は流れ(途中の歴史は略)、医療会や学会も進歩したのかしないのかは別として、現在EBM(Evidence Based Medicine)そしてNBM(Narrative Based Medicine)が主流になってきている。
「EBM(Evidence Based Medicine)」とは、「根拠に基づく医療」と訳される。「科学的根拠(エビデンス)」「専門家(医師)の経験・知識」「患者の価値観」の3要素を総合的に判断して治療方針を決めることを指し、患者中心の医療を実現するための概念として世界中に広がっている。従来の医療は、「専門家(医師)の医学的知識・経験」を中心に提供されていたが、疫学的に研究、証明されたもの「科学的根拠(エビデンス)」を重視した上で、患者に最も適した医療を行おうという考え方である。疫学的に研究、証明された「科学的根拠(エビデンス)」は、効率的で質の高い医療を実現することに有効である。しかし、一方それは一般論、確率論としての情報であり、すべての患者にはあてはまらないという問題を内包する。
そしてその後提唱されたのが「NBM(Narrative Based Medicine)」である。「物語りと対話に基づく医療」と訳され、患者が語る「物語」から,医師は病気だけではなく、患者個人の背景や人間関係を理解し、患者の抱える問題を全人的(身体的、精神・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする考え方である。「科学的根拠(エビデンス)」が必ずしもすべての患者にあてはまる唯一の方法ではないことを前提とし、治療方針の決定には、患者の主観的な主張を尊重する試みである。
EBMとNBMは、対立する概念として理解されがちであるが、NBMは、EBMにおける3要素における「患者の価値観」を理解するためのアプローチを示したものともいえる。いずれも患者中心の医療を実現するために両輪として機能することが期待された。
しかしながら、私はこれでも精神医学そして精神医療は本物とは程遠いものだと考えている。上記はいわば「効率的」「全人的」という指向性を持っているが、「いったい誰にとっての何の効率性?」「いったい全人的であるということの本質的意味を本当にわかっているの?」と言いたくなってしまうのである。
そして、バイアスの多い主観的項目で行う操作的診断基準(DSM)の登場とそれに影響を受け続けるICD国際疾患分類によって起きてくる「診断のインフレーション」「診断の流行」などは大きな問題だと思っている。
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